サイバー攻撃の多くは、「123456」や「password」など脆弱なパスワードを突破口にしています。本記事では、企業や組織が取り組むべき「パスワードポリシー」の基本から実践方法までを、初心者にもわかりやすく解説します。パスワードポリシーとは?パスワードポリシーとは、ユーザーが設定・使用するパスワードに対して定めるルールのことです。企業の情報資産を守るために不可欠であり、一般的には「最低文字数」「使用文字の種類」「変更頻度」などが含まれます。なぜ必要か?IPA(情報処理推進機構)の調査では、脆弱なパスワードや設定ミスが主要なリスク要因として挙げられています。企業内のセキュリティ対策として、適切なパスワードポリシーの整備は不可欠です。パスワードポリシーの主な設定項目パスワードポリシーの設計では、「強固なセキュリティ」と「使いやすさ」の両立がカギとなります。以下に、実際に設定すべき主要項目と推奨例を解説します。文字数と複雑さ推奨:最低12文字、英字・数字・記号を含む構成。例:「Yk5$9rmT!e2c」のようなランダム文字列は推測されにくく安全性が高いです。有効期限と変更頻度従来は「90日ごとに変更」が主流でしたが、NISTの最新ガイドラインでは「不必要な変更は不要」とされています。その代わり、異常検知やMFA(多要素認証)との組み合わせが重要視されています。パスワード再利用の制限同じパスワードの再利用を防ぐ設定は、情報漏えいリスクの拡大防止に有効です。一般的には「過去3〜5件まで再利用不可」と設定します。ログイン試行回数制限総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)を防ぐため、ログイン失敗回数を制限する設定(例:5回でアカウント一時ロック)は必須です。その他オプション辞書にある単語や個人情報(名前・会社名など)の使用を禁止「123456」や「password」など、既知の脆弱なワードを自動拒否パスクラでは、複雑なパスワードの自動生成機能や、再利用されたパスワードの数などを把握することができます。実用的なパスワードポリシー設定例安全性と利便性のバランスを考慮した3パターンの例を紹介します。最低限の安全性を確保する設定最低文字数:8文字英数字混在過去3件の再利用を禁止セキュリティ重視の強固な設定最低文字数:12文字英字・数字・記号を必須5回連続失敗でアカウントを10分間ロックMFAの導入を義務付け利便性とのバランスを取った設定最低文字数:10文字英数字混在、記号は任意過去5件までの再利用を禁止初回登録後の強制変更なし業界ガイドラインとの整合性NISTとIPAの比較NIST(米国):定期的な変更は不要、ブラックリストによる制限を推奨IPA(日本):定期変更や複雑な文字構成を強く推奨自社がどのガイドラインに従うべきかは、業界の慣行や規制要件に応じて判断しましょう。パスワード変更頻度が高いと、パスワードを記録するために簡単なパスワードにしてしまう傾向もあるため、強力なパスワードを1年に一回変えるくらいが良いでしょう。業界規制・監査対応の注意点医療・金融業界などでは、FISCやJIPDECのガイドラインに準拠する必要があります。こうした業界では、設定内容を文書化し、監査に備える体制が不可欠です。SSO・MFAと連携した現代的なポリシーパスワード依存の軽減SSO(シングルサインオン)やMFAを導入することで、パスワードに過度に依存しない設計が可能です。「強いパスワードを使う」から「攻撃されにくい認証構造をつくる」へと発想を転換しましょう。よくある失敗とその対策1.設定が厳しすぎてユーザーに負担「16文字以上・英大小文字・数字・記号すべて必須」といった高すぎる要件は、現場でのメモ帳保存やパスワード使い回しを誘発し、結果的にセキュリティを低下させる原因になります。対策複雑さより「長さ」を重視(12文字以上で覚えやすいフレーズ型など)記号の使用は「任意」とするユーザー教育とパスワード管理ツールの導入を併用することで、実用性と安全性を両立2.運用が形骸化する設定後に見直しが行われず、古い基準のまま放置されるケース。対策年1回以上のセキュリティレビューを定例化最新のガイドライン(NIST、IPAなど)と照らし合わせてポリシーを更新運用状況を定量的に可視化できるツール(パスクラなど)を活用し、見直しのタイミングを逃さない仕組みを整備自社に最適なポリシーを設計しようパスワードポリシーはセキュリティ対策の基盤です。文字数や複雑さだけでなく、ユーザーの使いやすさ、業界規制との整合性、ツールとの連携も含めて、自社に合った実践的なポリシーを策定することが重要です。